特徴のある機能をもつ化学物質は、いろいろな用途に用いられることが多く、また、材料に限らず技術はいろいろな分野に応用展開されることがあります。おもしろいのが、一旦すたれたと思われる技術でも、新たな応用展開により、息を吹き返すことがあることです。今回は、シアニン色素を例に、技術の応用展開について話をします。
世の中には、様々な色をもつ商品がありますが、これらには色素(染料)などが使われています。色素(染料)は、有機化合物や無機化合物であり、様々な種類があり、有機化合物としては、アゾ色素が代表的なものですが、その他にも、アントラキノン色素やシアニン色素など多くの色素(染料)が知られています。
シアニン色素は、光があたると分解し易く、色をつける目的には適していないため、皆さんはあまり目にすることがないと思います。この弱点のため、その応用展開は限られていますが、直接目にふれないところで使われてきました。
具体的には、写真用増感色素、光ディスク用色素などとして使われてきました。その他に、レーザー用色素、色素増感太陽電池用色素などとしても研究されたことがあります。シアニン色素は化学構造を少しだけ変更し、その性能を変えることが容易であり、様々な誘導体が知られています。
応用展開の順番としては
①約100年以上前: 写真用増感色素※
②約30年前以降: 光ディスク用色素(CD-R)
であり、歴史が長い技術であることがわかります。
①の写真用増感色素は、フイルムが可視光に感じるようにするために使われており、フイルムで写真を撮る人は少なくなりましたが、現在でも使われています。工業的には、最も成功した例ですが、ご存知のようにフイルムは光にあたると使いものにならないため、直接目にした方は少ないと思います。
このように、光があたると分解するため用途が限られていましたが、①から実に約70年の時を経て、②の光ディスク用色素として応用展開がなされました。光ディスクは通常光があたらない場所で保管されるので、その弱点があまり問題とはならなかったのだと思われます。
現在、シアニン色素の新たな応用展開分野は見えていませんが、①と②の間が約70年もあったことを考えると、今後、また息を吹き返す可能性もあると考えています。
※ 精細な銀塩写真を作る増感色素の秘密 http://www.csj.jp/journals/kakou/cimok/ci03-7.html
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