煙突掃除
少し古いですが、1995年に、「ロミオの青い空」というアニメが、フジテレビ系列の『世界名作劇場』枠で放送されていました。簡単に説明すると、19世紀に、ロミオ少年が、人身売買人により煙突掃除夫としてミラノの街で働かされるのですが、同じ煙突掃除夫のアルフレド少年と一緒にグループを結成し、他の不良グループとたたかう中で友情をはぐくむ物語です。しかし、物語の最後で、アルフレドは病気でなくなってしまいます。
煙突は小さいため、19世紀は煙突掃除夫には子供が多く、大量の「すす」に直接触れるため、健康を害してなくなる子供が多かったとのことです。これは、「すす」によるリスクを示すものです。
化学系と生物系のリスクの比較
「リスク」はおおくの分野で使われる言葉ですが、化学物質管理の分野では、リスクは化学物質の有害性(毒性)等と曝露の積により見積もられます。
生物系の病原体についても基本的には同様の考え方で取扱えばよいので、まず化学物質のリスク評価の話をします。
■化学物質のリスク評価の手順※1
一般的には、以下の手順で進めます。
①化学物質の有害性の特定 (有害性の国際標準のGHS分類等を利用)
②曝露の見積もり (定量的な予測手法等あり)
③有害性と曝露からリスクの見積もり (リスク=有害性×曝露)
④リスクが許容できない場合、リスク低減措置を検討、実施
■化学物質のリスク評価手法
大きくは、定性的な手法と定量的な手法に分けられます。
まず、簡便な定性的な手法でリスクを見積もり、リスクが許容できない場合に、定量的な手法で再評価、又は実測を行うことが一般的です。
例)
①定性的手法:コントロールバンディング※2
化学物質の有害性と曝露を定性的にクラス分けし、これらのマトリックス表から、必要な管理対策を区分で示す方法
②定量的手法:ECETOC TRA※3
曝露レベルを定量的に予測するツール
化学物質の「無毒性量」※4 よりも「曝露」が小さいとリスクなし、その逆だとリスクあり となり曝露防止等の対策が必要となります。
病原体によるリスクは、簡単にいえば 「無毒性量」を 「発症必要量」に置き換えて考えればよいと思われます。例えば、ノロウイルスは毒性の高い化学物質の「無毒性量」よりも10の10乗オーダー軽い重量でも発症します。
「発症必要量」が小さい病原体等を取り扱う場合、生物学用安全キャビネット等を使用し、より厳しい封じ込めレベルの実験室で行なう必要があります。
※1 : 労働災害を防止するため リスクアセスメントを実施しましょう - 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000099625.pdf
※2 : 厚生労働省HP> 化学物質のリスクアセスメント実施支援 > 厚生労働省版コントロール・バンディング
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_1.htm
※3 : 日本化学工業協会HP「化学物質リスク評価支援ポータルサイト-リスクアセスメント実践」
http://www.jcia-bigdr.jp/jcia-bigdr/material/icca_gss_maker_jissen
※4 :「無毒性量」は、通常、動物実験により無毒性量を求め、種差、個人差の不確実係数(例えば各々10)で除して、ヒトに対する無毒性量(動物実験の1/100)を算出する
生物系と化学系のリスクの性質の違い
上記で、生物系の病原体等には、化学物質よりもリスクが高いものがあり、より厳しい封じ込めが必要という話をしました。
これは、生物は生きたまま環境中に拡散すると自己増殖能力により増えていくことも一因です。化学物質は自分で勝手に増えるようなことはありません。
また、「セレンディピティと帰納法」で、あくまで個人的な考えですが、以下のように、化学の方が生物よりも演繹的(つまり論理的に結論を導ける)と述べました。つまり、研究者が予想しないものが作られる可能性は低いといえます。
「帰納法」 生物 > 化学 > 物理
「演繹法」 物理 > 化学 > 生物
生物系と化学系の規制法を比べると、生物系は研究段階で新たに作られる生物(遺伝子組換え生物等)についても拡散防止措置等の規制がなされるのに対して、化学系は研究段階で新たに作られる化学物質が規制されることはほとんどなく自主的な管理に任されています。
化学物質が規制されるのは、実用化されて大量に製造される前段階であることがほとんどです。これは以下のように説明できるのではないでしょうか。
【生物は、「自己増殖するためごく微量でもリスクが高いものがあり」、また、「遺伝子組換え等で作られる生物が、有機合成で新たに作られる化学物質よりもなにができるか予測しにくい」ため、リスクが高くなる可能性がある。そのため、研究段階で作られるものに対してもより厳しい規制が必要である。】
少し脱線しますが、有機合成では、100年以上にわたって多くの有機合成反応の知識が集積されており、優れた有機合成化学者は、これらの知識に新たな発想をもちこみ、複雑な化合物の最適な合成ルートを導き出します。近年では、莫大な有機反応の知識がデータベース化されており、コンピュータを活用して合成ルートを導きだすことも可能となっています。
生物系でも同様なことは言えますが、化学系の方が、生物系に比べて、一日の長があるのではないかと思っています。
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