今回は、「名古屋議定書」に関連する話をします。
名古屋議定書は、「生物多様性条約」に関連した、遺伝資源の利益配分に関する特別な取り極めです。2010年に名古屋で採択されたので、記憶にある方も多いと思います。
名古屋議定書に関して、2017年8月20日に日本も締約国入りし、同日に関連する国内措置であるABS指針※1 が施行され、大学、企業などでの取り組みが加速しています。
そこで、関連する「生物多様性条約」「名古屋議定書」「ABS指針」について解説します。
※1 「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」:http://www.env.go.jp/press/files/jp/105772.pdf
【生物多様性条約】
生物多様性条約(1992年採択、1993年発効)は以下の3つの目的を掲げています。
(1)生物の多様性の保全
(2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用
(3)遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分
・遺伝資源に関する保有国の主権的権利の規定
・遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を規定
(ABS:Access to Gnenetic Resources and Benefit Sharing)
・遺伝資源を取得する際には相手国からの事前同意の取得を規定
【名古屋議定書】
このなかの(3)の利益配分について、ボンガイドライン(2002年採択、ABSに関する国際的なガイドライン)が策定されましたが、法的な拘束力はありませんでした。
そこで、利益配分の特別な取り極めとして、「名古屋議定書」が2010年に採択されました。「名古屋議定書」は、利益の公正かつ衡平な配分のため、「情報の交換と共有化」 「資源提供国での国内法の整備」 「資源利用国での遺伝資源の利用に関する情報収集」等を定めた国際的なルールで、2010年に名古屋市で開かれた生物多様性条約締約国会議「COP10」で採択され、その4年後に発効しました。
生物多様性条約/名古屋議定書で求められることを図1※2 に示しました。
図1 遺伝資源の利用に関する生物多様性条約および名古屋議定書の枠組み
※2 日本学術会議「学術研究の円滑な推進のための名古屋議定書批准に伴う措置について」p-3 を参考に作成
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t238.pdf
【契約等】
海外遺伝資源(関連する伝統的な知識含む)へのアクセス・利用には、以下の3つが必要です。
①提供国の法令遵守
②提供国政府と事前同意(PIC)
③提供国関係者と相互に合意する条件で契約(MAT)
これらは名古屋議定書の批准に関わらず、生物多様性条約で求められるものです。また、提供国によって法令が異なるので注意が必要です。
・「遺伝資源」は、死んでいるものも対象
・ヒトは含まれない
【ABS指針の主な内容】
①遺伝資源の適法取得の報告
・遺伝資源の取得者は、原則として、国際遵守証明書がABSクリアリングハウスに掲載後6月以内に、適法取得の旨を環境大臣に報告する
・未報告者に対しては報告を求める(環境大臣)
②適法取得の国内外への周知
・環境大臣は、①の報告内容を、環境省ウェブサイトに掲載し、ABSクリアリングハウスに提供する
③モニタリング
・①の報告から概ね5年後、遺伝資源利用に関連する情報提供を求める(環境大臣)
・未提供者に対しては再度提供を求める(環境大臣)
④提供国法令違反の申立てへの協力
・他の締約国から提供国法令違反の申立てがあった場合、環境大臣は、必要に応じ、遺伝資源等の取扱者に対し情報提供を求め、当該締約国に提供する
以下に、「ABS指針」における遺伝資源等の用語の定義を示します。資源提供国によって定義が異なるので注意が必要です。(要注意:代謝物、遺伝情報を遺伝資源に含めている提供国あり)※3
[用語の定義]
(1) 遺伝資源: 遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材であって現実の又は潜在的な価値を有するものをいう。
(2) 遺伝資源の利用: 遺伝資源の遺伝的又は生化学的な構成に関する研究及び開発を行うことをいう。
(3) 遺伝資源に関連する伝統的な知識: 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連する伝統的な生活様式 を有する先住民の社会及び地域社会において伝統、風習、文化等に根ざして昔か ら用いられている特有の知識のうち、遺伝資源の利用に関連するものをいう。
※3(参照HP)環境省HP:
・「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」http://www.env.go.jp/nature/biodic-abs/index.html
・「国内措置(ABS指針)について」http://www.env.go.jp/nature/biodic-abs/consideration.html
【関連する条約】
生物多様性条約とは別に、遺伝資源に関連する条約として、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)」(日本:2013年批准)が挙げられます。ITPGRは食料、農業に関連する植物遺伝資源を対象として特別な取り扱い(商業化から生じた利益の一部の利益配分基金への支払い)を定めるものであり、生物多様性条約に対する特別法として位置付けられています。
その他、海洋資源に関して、国連海洋法条約(UNCLOS)にも留意する必要があります。
【合成生物学などの影響】
遺伝資源に関して、合成生物学やDNAのデジタルデータが与える影響が議論されています。
【今後】
遺伝資源に関しては、研究機関の属性・規模等に応じた効率的な管理の方法の確立が必要と考えられます。
【まとめ】
1.海外遺伝資源(関連する伝統的な知識含む)等へのアクセス・利用には、
①提供国の法令遵守
②提供国政府と事前同意(PIC)
③提供国関係者と相互に合意する条件で契約(MAT) が必要
【これらは、名古屋議定書の批准に関わらず生物多様性条約で求められるもの】
2.現地の地域住民や先住民族への配慮必要(リスクマネジメント)
3.名古屋議定書の批准(2017/8/20)に伴い、遺伝資源等の取得者は「国際遵守証明書」が国際クリアリングハウスに掲載された場合、6月(6ヶ月)以内に環境大臣に報告すること等が義務となった
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