海外の遺伝資源に関する "生物多様性条約/名古屋議定書(以下「ABS」という。) に関して、今まで「生物多様性条約/名古屋議定書/国内ABS指針」「生物多様性条約/名古屋議定書に関する最近の話題」などで取り上げました。
研究者が”海外遺伝資源”を研究や開発などで利用する際は、その利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分のため、以下1のように、基本的事項を守って対応する必要があります。資源提供国法令は、日本の研究者が全てを調べるのは困難なので、研究のカウンターパートに調査・対応をしてもらうことが基本です。
しかし、自分で予備的な調査をすることなどが必要なこともあります。そこで、2で"ABS法令の国別情報(日本語)" などが掲載されたサイトをまとめ、さらに各サイトに掲載されている国を一覧表ににまとめました。国毎の情報の簡単な調査の際に、便利に使うことができると思います。
ABS関連の情報収集の際は、本記事に加え、「ABS情報サイトが一目でわかる」もあわせてご利用ください。
1.研究者が海外遺伝資源を取り扱う際の一般的な対応
【基本的事項】提供国の法令を守る
(1) 各国の生物(遺伝資源)は、それぞれの国が権利を持つ資源として扱うこと
(2) 遺伝資源の利用にはその国の許可が必要であること
(3) 利益が生じた場合は提供国、利用国の両国で公正に配分すること
【一般的な対応】
1)提供国側のカウンターパートとなる研究者と、当該サンプルを使用した国際共同研究を行なう
(提供国政府との交渉を含めた様々な段階で現地の言葉しか使えない場合や、外国人による採取を認めない国もあり、カウンターパートの存在は必須。)
2)共同研究者の所属機関の間で、MAT条項(Mutually Agreed Terms: 利益配分、役割分担などについての記述)が入った共同研究契約書(MoU/MoA)を結ぶ
3)提供国の政府の担当機関に対して、研究許可、採取許可、転移許可などの政府許可証(PIC: prior informed consent)を申請し、取得する。
4)提供国の法令(生物保護に加え、検疫/輸出入/関税など)を遵守して、サンプルを採取し、日本に送付する。
(遺伝資源を日本に持ち込む際は、輸入や検疫に関連する日本国内法令を守る。)
◇なお、国際遵守証明書(IRCC)がABSクリアリングハウスに掲載される場合、遺伝資源の取得後6ヶ月以内に日本政府の担当部局である環境省にABS手続きや遺伝資源取得の報告を行うなどの対応も必要になります。(「生物多様性条約/名古屋議定書/国内ABS指針」参照)
2."海外のABS関連法令等の情報" の日本語サイト
"海外のABS関連法令" 調査の際は、まずABS クリアリングハウスの Country Profiles(URL: https://absch.cbd.int/countries )の確認をお勧めしますが、便利な日本語訳や関連情報などが掲載されたサイトを【表1】にまとめました。また、各サイトに掲載されている国を【表2】にまとめました。
【表1】
ABS 資源提供国法令(日本語訳)サイト | URL |
①国立遺伝研究所 ABS学術対策チーム 各国情報 | http://nig-chizai.sakura.ne.jp/abs_tft/report/qrca/ |
②環境省 生物多様性センター 諸外国の関係法令等(環境省暫定訳) | http://www.env.go.jp/nature/biodic/abs/foreign_measures.html |
③農林水産省 海外生物遺伝資源の利用促進のための総合窓口(国別・地域別情報) | http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/GR/s_win_abs.html#kakkokujouhou |
④一般財団法人 バイオインダストリー協会 CBD関連国別情報 | http://www.mabs.jp/countries/index.html |
⑤独立行政法人 製品評価技術基盤機構 (NITE) 生物多様性条約関連国別情報 | http://www.nite.go.jp/nbrc/global/countries/index.html |
【表2】(2019/10/13作成、2020/7/28更新)
注)海外の遺伝資源を利用する研究者は、名古屋議定書締約国であるかないかにかかわらず当該国の国内法令を遵守することが必要です
国名 | 名古屋議定書締約国 注) | ①遺伝研 | ②環境省 | ③農林水産省 | ④バイオインダストリー協会 | ⑤NITE |
■アジア・オセアニア | ||||||
アセアン | ー | 〇 | ||||
太平洋共同体 | ー | 〇 | 〇 | |||
インド | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
インドネシア | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
イラン | 〇 | |||||
オーストラリア | 〇 | 〇 | ||||
韓国 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
キルギス | 〇 | 〇 | ||||
スリランカ | 〇 | |||||
タイ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
タジキスタン | 〇 | 〇 | ||||
中国 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
パラオ | 〇 | 〇 | ||||
フィリピン | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
ブータン | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
ベトナム | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
マレーシア | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
ミャンマー | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
モンゴル | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
ラオス | 〇 | 〇 | 〇 | |||
ロシア | 〇 | |||||
■アフリカ | ||||||
アフリカ連合(AU) | - | 〇 | 〇 | |||
アルジェリア | 〇 | |||||
ウガンダ | 〇 | 〇 | ||||
エチオピア | 〇 | 〇 | ||||
ケニア | 〇 | 〇 | 〇 | |||
コートジボワール | 〇 | 〇 | ||||
コンゴ民主共和国 | 〇 | 〇 | ||||
ナミビア | 〇 | 〇 | ||||
ニジェール | 〇 | 〇 | ||||
マダガスカル | 〇 | 〇 | ||||
マラウィ | 〇 | 〇 | ||||
南アフリカ | 〇 | 〇 | 〇 | |||
■ヨーロッパ | ||||||
欧州連合(EU) | - | 〇 | 〇 | 〇 | ||
イギリス | 〇 | 〇 | 〇 | |||
オランダ | 〇 | 〇 | ||||
クロアチア | 〇 | 〇 | ||||
スイス | 〇 | 〇 | 〇 | |||
スウェーデン | 〇 | 〇 | ||||
スペイン | 〇 | 〇 | 〇 | |||
デンマーク | 〇 | 〇 | ||||
ドイツ | 〇 | 〇 | ||||
ノルウェー | 〇 | 〇 | 〇 | |||
ハンガリー | 〇 | 〇 | ||||
フィンランド | 〇 | 〇 | 〇 | |||
フランス | 〇 | 〇 | 〇 | |||
(仏領ギアナ) | 〇 | 〇 | ||||
ブルガリア | 〇 | 〇 | ||||
ベラルーシ | 〇 | 〇 | 〇 | |||
ポーランド | 〇 | |||||
ポルトガル | 〇 | 〇 | ||||
マルタ | 〇 | 〇 | ||||
■北・中・南米 | ||||||
アンデス共同体 | - | 〇 | 〇 | |||
アルゼンチン | 〇 | 〇 | ||||
アンチグア・バーブーダ | 〇 | 〇 | ||||
エクアドル | 〇 | 〇 | ||||
ガイアナ | 〇 | 〇 | ||||
カナダ | 〇 | |||||
グアテマラ | 〇 | 〇 | ||||
コスタリカ | 〇 | 〇 | ||||
ドミニカ共和国 | 〇 | 〇 | ||||
パナマ | 〇 | 〇 | ||||
パラグアイ | 〇 | |||||
ブラジル | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
ペルー | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
メキシコ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
【ABS 用語】
◇生物多様性条約第二条:「遺伝資源」とは、現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材をいう。
(「遺伝素材」とは、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材をいう。)(「伝統的な知識」は遺伝資源に含まれる。)
◇名古屋議定書第二条:
(c) 「遺伝資源の利用」とは、遺伝資源の遺伝的又は生化学的な構成に関する研究及び開発(条約第二条に定義するバイオテクノロジーを用いるものを含む。)を行うことをいう。
(d) 条約第二条に定義する「バイオテクノロジー」とは、物又は方法を特定の用途のために作り出し、又は改変するため、生物システム、生物又はその派生物を利用する応用技術をいう。
(e) 「派生物」とは、天然に存在する生化学的化合物であって、生物資源又は遺伝資源の遺伝的な発現又は代謝の結果として生ずるもの(遺伝の機能的な単位を有していないものを含む。)をいう。
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