2019/5/28に、「AIと倫理」について取り上げ、国内外の学会、国際機関などによるガイドラインについて説明しました。ヘルスケア、金融、ものづくり分野をはじめAI適用の裾野が広がる一方で、現実のデータから特徴を見出すAIの特性上、データに含まれるバイアスに起因して不公平な判断をAIが下すケースなどが問題視されています。今回、企業の取組みを中心に最近の状況をまとめました。
AI倫理の国際規範(ユネスコ)
ユネスコは、世界で技術開発が進む人工知能(AI)の倫理に関する国際的な規範を策定し、加盟国への「勧告」として総会で採択したと発表しました(2021/11)※1。(ユネスコによるとAIの倫理に関する国際的な合意は初めて)
勧告に法的拘束力はありませんが、加盟国は法制化など「内容を履行する責任がある」とされ、各国の取り組みをチェックし、評価する仕組みも盛り込まれています。
勧告は、AIを開発、利用する際に尊重すべき価値として、①人権 ②環境保全 ③多様性 ④平和や公正さ―を掲げ、プライバシー保護や透明性確保など守るべき10の原則を規定、さらに「性別に関する型にはまった考えや差別的な偏見がAIのシステムに反映されないようにする」などさまざまな分野での具体的な行動も多数定めています。
※1: 日本経済新聞、AI倫理の国際規範策定 世界初とユネスコ(2021/11/26)、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB261TP0W1A121C2000000/
企業のAI倫理への取り組み
富士通は、2019/3に、AIの安心・安全な利用に向けた「富士通グループAIコミットメント」を策定※2し、AIをはじめとする最先端テクノロジーの社会浸透・信頼確保の実現を加速するため、新たに「AI倫理ガバナンス室」を設置しています※3。同社では、最先端テクノロジーの研究・開発・実装にまつわる倫理に関する国際的な動向、政策、法制度の動向などを踏まえ、AI倫理ガバナンスに関する全社的かつ総合的な取り組みを強化していくとのことです。
さらに、同社では、AI倫理ガイドラインに基づきAIシステムの倫理上の影響を評価する方式を開発し、当該方式および、これに基づくAI倫理影響評価手順書ならびに適用例のドラフト版をAIシステムの開発者や運用者向けに、無償公開しました※4。
※2:https://pr.fujitsu.com/jp/news/2019/03/13-1a.pdf 、富士通グループAIコミットメント5原則 「1.AIによってお客様と社会に価値を提供します」「2.ヒトを中心に考えたAIを目指します」「3.AIで持続可能な社会を目指します」「4.人の意思決定を尊重し支援するAIを目指します」「5.企業の社会的責任をしてAIの透明性と説明責任を重視します」
※3:富士通プレスリリース、AIなど最先端テクノロジーの社会浸透・信頼確保の実現を目的とした、AI倫理ガバナンス室の新設(2022/1/28)、https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/01/28.html
※4:富士通プレスリリース、AI倫理ガイドラインに基づきAIシステムの倫理上の影響を評価する方式を開発、手順書や適用例とともに無償公開(2022/2/21)、https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/02/21.html
※5:(参考 同社のインタビュー記事):フジトラニュース、「持続可能な社会を支える安心で信頼できるAIを目指して」AI倫理浸透へのあくなき挑戦(2022/5/10)、https://www.fujitsu.com/jp/microsite/fujitsutransformationnews/2022-05-10/01/
また、ソフトバンク株式会社は、AI(人工知能)の活用や研究開発に関する基本指針を定めた「ソフトバンクAI倫理ポリシー」を策定しました※6。具体的には「人間中心の原則」「公平性の尊重」「透明性と説明責任の追求」「安全性の確保」「プライバシー保護とセキュリティの確保」「AI人材・リテラシーの育成」の六つの項目において指針を定め、この指針にのっとった事業運営やサービス開発などを行っていくとのことです。
※6:ソフトバンク、ソフトバンクAI倫理ポリシー(2022/7/12)、https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2022/20220712_02/
今後、ガバナンスのため、AI倫理に取り組む企業が増えてくると考えられます。