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知的財産権

医療関連行為の産業上の利用可能性など

知的財産権とライフサイエンス」で、知的財産権とライフサイエンスに関して簡単に話をしました。ライフサイエンス分野において、特許法ではいくつかの特徴的な取り扱い(産業上の利用可能性、存続期間の延長制度 など)が知られています。このうち、存続期間の延長制度に関しては、「医薬品に関連する法令など」で紹介(特許の存続期間は、原則、出願から20年であるが、医薬品では、行政の審査等の規制により特許発明を実施できない期間がある場合には、最大で5年間の延長が認められている。(特許法 第67条))しました。
そこで、今回は、医療関連行為の「産業上の利用可能性」に対する取り扱いについて取り上げます

産業上の利用可能性

特許要件の一つである、「その発明が、産業上利用できるものであること(産業上の利用可能性)」について、「医療機器、医薬品」は該当しますが、「人間に対する医療行為、治療方法自体」は該当しないとする運用が行われています
具体的には、「特許・実用新案審査基準」の第III部 第1章 のp-7-12※1 に記載されていますが、まとめると以下のようになります。最新の再生医療等は、ほとんどの場合「人間から採取したものを処理する方法」として、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」に該当しない発明となると考えられますが、審査基準に具体的に記載されているので、事例毎に検討する必要があります。

産業上の利用可能性の要件を満たさない発明の類型の一つ:「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」 これらは、通常、医師(医師の指示を受けた者を含む)が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法であって、いわゆる「医療行為」といわれているもの。
■「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」に該当しない発明:医療機器、医薬等の物の発明」「医療機器の作動方法」「人間の身体の各器官の構造又は機能を計測する等して人体から各種の資料を収集するための方法」「人間から採取したものを処理する方法」

これらの背景としては、医療関連行為の発明は大学や大病院においてなされており、特許制度によるインセンティブ付与の要請が強くなく、また、医学研究は研究開発競争になじまないとする政策的理由や、医薬品・医療機器に比較して、医療行為の場合は緊急の対応が求められることが多く、実施に当たって特許権者の許諾を求めなければならないとするのは不当であるとする人道的理由などがあげられてきました※2。なお、「医療関連行為に関する特許法上の取扱い」について、「産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会医療行為WG」(以下「医療行為WG」という。)での検討結果が報告※2 されているので参考になります。

※1 : 特許庁ホーム> ・・> 基準・便覧・ガイドライン> 特許・実用新案> 特許・実用新案審査基準https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/index.html
第III部 特許要件 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)(p-7-12) https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0100.pdf
※2:特許庁ホーム> ・・> 産業構造審議会 知的財産分科会> 医療行為ワーキンググループ https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/iryoukoui-wg/
「医療関連行為発明に関する特許法上の取扱いについて」報告書 https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/iryoukoui-wg/document/index/iryou_report.pdf

特許性の判例

医療関連行為の特許性については、東京高等裁判所で争われた「外科手術を再生可能に光学的に表示するための方法及び装置」に関する審決取消請求事件の判例※3 があり参考になります。以下に簡単にまとめました。

1.拒絶査定→拒絶査定不服審判
・本願発明は「人間を診断する方法」に該当すると認定され、「医療行為」であるから、「産業上利用することができる発明」に当たらないという理由で拒絶審決がなされた。
2.審決取消請求
・上記審決の取消しを求めて出訴がなされたが、原告の請求は棄却された。(判決言渡日 2002/04/11)(理由:特許性の認められない医療行為に当たることが明らかである)

※3:平成 12年 (行ケ) 65号 審決取消請求事件  特許判例データベース  http://tokkyo.hanrei.jp/hanrei/pt/2792.html

諸外国の状況

医療関連行為発明への特許付与に関する諸外国の状況については、少し古いですが「医療行為WG」の報告(p-8,9)※2 にまとめられています。
知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)で、「人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法」は、特許の対象から除外できることが規定されています。代表的制度として、欧州では特許権を付与しないとの運用がなされており、米国では特許権を付与しつつ特許権の効力に一定の制限を設ける運用がなされています。
なお、上記の「産業上の利用可能性」の項で、”最新の再生医療等は、ほとんどの場合「人間から採取したものを処理する方法」として、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」に該当しない”、つまり特許権が付与される運用が行われていると説明しましたが、諸外国でもほとんどの場合、「皮膚の培養方法や細胞の処理方法のようなもの」については医療行為とは解されず、特許権が付与される運用となっています。

おわりに

医療分野では、「CAR-T細胞療法」のように、細胞や遺伝子を用いる新しい治療法が開発されてきています。これらは、基本的には特許権が付与されると考えられ、権利の保護により企業での開発が加速することが期待されます。

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